エヌビディアは日米株式市場の救世主となるか?

エヌビディアは日米株式市場の救世主となるか?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/08/22

日経平均は急落。米長期金利の上昇や中国経済への懸念が重しに

8月第3週末(8/18)の日経平均は、前週末比1,022円89銭安(▲3.15%)と週足ベースで大幅反落となりました。下値抵抗の目途であった32,000円を終値基準で約1ヵ月ぶりに割り込んだ形です。

為替市場ではドル円が一時1ドル146円台をつけ、株式市場にとって追い風となりやすい円安ドル高が進行。しかし、複数の米経済指標が強かったことで、米10年債利回りが2007年以来の高水準まで上昇。円安という好材料を押しのける形で、金利上昇がグロース株中心に株式市場の重しとなりました。他には、中国経済に対する見通しの不透明感が広がり、中国関連株の下落も目立った展開です。中国最大の不動産開発業者、カントリー・ガーデン(碧桂園)のデフォルト懸念は8月前半から浮上し、8/22(火)時点では顛末は明らかになっていません。もし同社がデフォルトした場合、不動産市場のみならず中国経済全体、ひいては東京株式市場にも大きな影響が及ぶことが想定されます(詳しくは、~カントリー・ガーデンのデフォルト懸念とチャイナリスク~ をご覧ください)。

日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(8/10~18、図表7)の首位は、ポンプ大手の荏原製作所(6361)でした。4-6月期決算発表では半導体装置向けの需要は低迷したものの、海外でエネルギー向け需要が伸長。半期(23.1-6期)として過去最高益を更新した格好です。3位の日本郵政(6178)は発行済み株式数のおよそ10%にあたる、大規模な自社株買いの実施を発表したことが好感されました。上限金額は3,000億円ですが、政府が保有分の一部を約1,056億円で売却。残枠は通常の立ち合い市場で取得予定であり、良好な需給環境が期待されます。また、前週の首位であった日本板硝子(5202)も引き続きランクインしています。

日経平均株価採用銘柄の下落率上位(8/10~18、図表8)の首位は、三井E&S(7003)でした。4-6月期の営業利益が前年同期から黒字転換したものの、新株予約権の行使による資金調達が株価の下落圧力となっている模様です。他には、中国経済への懸念からエネルギー価格が下落した影響でINPEX(1605)が連れ安となりました。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(8/10~8/18)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(8/10~8/18)

エヌビディアは日米株式市場の救世主となるか?

8/21(月)の日経平均は4営業日ぶりに反発。先週1週間で日経平均は合計で1,000円超下落していたため、自律反発狙いの買いが入ったものと見られます。もっとも、上昇が目立ったのはディフェンシブ銘柄が中心であり、相場が本格的な反発局面に入ったか否かを判断するには、もう少し相場の動きを見守る必要がありそうです。

そうした中で今週は米国において、今後の相場展開に大きく影響しそうな注目イベントが複数控えています。1つは8/25(金)のパウエルFRB議長講演。日時が前後しますが、もう1つは8/23(水)に発表されるエヌビディアの23年2Q(5-7月期)決算です。

まず、パウエルFRB議長の講演は、8/24-26に米ワイオミング州の高原リゾート地ジャクソンホールで行われる年次シンポジウムの中で行われます。カンザスシティ連銀主催の同シンポジウムは、世界主要国の中央銀行総裁や幹部が一堂に会し、金融政策について様々な話し合いが行われます。そのホスト国ともいえるFRB議長の講演では、その内容が金融市場の大きな節目になったことが度々あったため、市場関係者の関心がいつも以上に高まります。

パウエル氏の講演内容については現時点で不明ですが、市場参加者の間では、同氏が中立金利(ターミナルレート)に関して言及するのではないかと予想する声が聞かれます。中立金利とは理論上、景気を刺激せず、抑制もしない中立の政策金利を指します。正確な水準を知ることは極めて困難なのですが、金融政策を運営するうえで、中立金利の水準を推測することは極めて重要と言えます。一部では、パウエル氏が今回の講演において、中立金利の水準が高まっている可能性がある、との認識を示すのではないかとの観測が高まっているようですが、そうなれば市場において、追加利上げへの警戒が強まる可能性があります。

ただ、同シンポジウムにおけるFRB議長の講演は、必ずしも米金融政策に関する発言が行われる訳ではありません。過去に金融政策の大きな節目になったことがあるのは確かですが、逆に事前の思惑に反して、米金融政策に関する発言がほとんど見られず、市場が肩透かしにあうことも多々あったことには注意する必要があるでしょう。

図表9  日経平均の日足チャート

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成


足元、米国株式市場はグロース株(成長株)を中心にやや軟調な展開となっています。そうした中、相場上昇のカンフル剤として期待されるのが、8/23(水)の米国株式市場の取引終了後(日本時間の24日朝)に発表される、人口知能(AI)向け半導体大手エヌビディアの23年2Q(5-7月期)決算です。

8/21(月)の米国株式市場では、エヌビディアの決算発表を控えてアナリストによる同社目標株価の引き上げが相次ぐ中で同社株価が急伸するなど、市場の関心の高さがうかがえました。また、前回(23年1Q)決算時には、決算発表前の米国株式市場は上値の重い展開となっていましたが、同社の好調な決算を受けて、同社株が急上昇しただけではなく、相場全体(ひいては日本の半導体関連銘柄も)も勢いを取り戻しました。市場では、今回も同様の展開を期待する動きが強まっているのではないかと思われます。

図表10はグロース株(成長株)の代表的な株価指数であるNASDAQ総合指数と、インフレの影響を考慮した実質金利の推移を示したグラフです。7月末以降、NASDAQ総合指数は、実質金利の上昇を背景に軟調に推移しています(逆相関)。これは、今年初めから3月頃までの動きと同様であり、実質金利の上昇(低下)がグロース株の逆風(追い風)になるという、教科書的な動きとなります。しかし、今年4月から7月にかけては、実質金利が上昇したにも関わらず、NASDAQ総合指数は堅調に推移しました。この背景には、実質金利の上昇による逆風よりも、AIの成長性(テーマ性)が、株式市場においてより重要視されたためと考えられます。

図表10 米国実質金利とNASDAQ総合指数

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成


エヌビディアの今回(23年2Q)の決算では、AIサービス向け半導体の旺盛な需要などを背景に、収益面で大幅な伸びが予想されています(図表11)。実績の好調さが示されることに加え、先行きについても高い利益成長の継続が示されるのかが注目されます。市場参加者の期待値がかなり高まっていると見られるため、(高すぎる)実績や見通しが市場予想を下回ったり、決算発表後に利益確定売りに押される可能性には留意する必要がありますが、同社決算を受けて、日米の株式市場においてAI相場が息を吹き返すか否かが注目されます。

図表11  エヌビディアの1株利益推移(実績および予想)

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成


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