主要国の金利上昇が続くと予想される納得の理由とは?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2023/09/19
日経平均は大幅反発。バリュー株優位の展開がつづく
9月第2週末(9/15)の日経平均は、前週末比926円25銭高(+2.84%)と週足ベースで大幅反発。円安ドル高の基調が続いたことや、米8月消費者物価指数(CPI)の発表を大過なく通過したことで、安心感から買いが広がった形です。
バリュー株優位の流れも続き、同上期間、TOPIXグロース指数は+1.5%であったのに対し、TOPIXバリュー指数は+4.2%でした。バリューセクターの株式の割合が日経平均よりも大きいTOPIXは、9/15(金)に年初来高値を更新。米金利上昇に対しての警戒感が依然として残存していることに加え、9月の配当取りを意識した買いが入ったことも押し上げ材料となりました。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(9/8~15・図表7)の首位は三井E&S(7003)*、2位は住友ファーマ(4506)です。期中の両銘柄に関し、特段新たな材料はありませんでした。そのため、売り残の増加や割安感等が意識されたことが、押し上げ要因として想定されます。3位の日揮ホールディングス(1963)は原油高が追い風となった格好です。ロシアやサウジアラビアの減産計画延長の影響が長引いており、日本時間9/19(火)未明に米石油大手シェブロンCEOは原油価格は1バレル=100ドルの水準(9/19時点で1バレル=約91ドル)に近付いているとインタビューにて回答しています。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(9/8~15・図表8)では、大手重工3社がランクイン。日本時間9/12(火)、航空防衛大手RTXは、傘下のP&W製エンジンで大掛かりな点検・修理が必要となったと発表。検査期間は2026年まで要する見通しで、共同開発している日本企業も業績悪化が見込まれ売られた格好です。中でも、出資比率が高いIHI(7013)の下げ幅は大くなりました。
9月第3週、日経平均の寄り付きは下落スタートです。9/20(水)夜に開催が予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)では、四半期に一度のFRB(連邦準備銀行)メンバーによる米政策金利見しが発表予定であり、警戒ムードが漂っています。
*三井E&S(7003)は、10/2(月)以降、日経平均採用銘柄の算出から除外されます。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(9/8~15)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(9/8~15)
主要国の金利上昇が続くと予想される納得の理由とは?
今週は9/19・20に米国で連邦公開市場委員会(FOMC)、21日に英国で金融政策委員会(MPC)、21・22日に日本で日銀金融政策決定会合と、主要国で金融政策を決める重要な会議が相次ぎます。
このうち、日本については、9/9の報道で、植田総裁が「年内に(金融緩和の解除)が判断できる材料が出揃う可能性がある」と見解を示したと報じられました。これを受けて、市場ではにわかに金融緩和解除のタイミングが前倒しされるのでは、との見方が強まりましたが、その後、複数の日銀関係筋が、(9/9の報道における)植田総裁の発言と市場の解釈にギャップがある、との指摘が報じられており、金融緩和の早期解除への思惑は後退しているようです。したがって、今回の日銀金融政策決定会合で、金融緩和の解除に向けてあらたな材料が示される可能性は低いと考えられます。しかしながら、9/12の225の『ココがPOINT』「植田総裁の見方に変化!?当面はバリュー株優位の展開か?」で指摘したように、日本経済は着実にデフレ脱却に向けた動きが確認できるため、今後、こうした動きが一段と鮮明になれば、改めて金融緩和解除に向けた動きが強まると考えられます。
一方、米国ではFOMCが開催されます。図表9は市場が予想する政策金利(FFレート)の水準ですが、今回のFOMCにおいて利上げはほとんど織り込まれていません。今会合で利上げが行われれば大きなサプライズとなりますが、金融政策では、サプライズが発生するタイミングでの金融引き締め(利上げ)は、避けられる傾向があります。利上げに向けた地ならしが行われていない今会合では利上げ見送りとなる可能性が高そうです。
図表9 市場が予想する政策金利(FFレート)見通し
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
今回のFOMCでは、政策メンバーによる経済、政策金利見通しが更新されます。 このうち、注目されるのは政策金利見通し(ドット・チャート)でしょう(図表10)。 前回6月のドット・チャートでは、2023年末の政策金利の水準(中央値)は、5.63%(5.50-5.75%)と、現在の政策金利(5.25-5.50%)に対し、年内あと1回の利上げが見込まれています。この水準が下方修正されれば、利上げの打ち止めを示唆することとなり、株式市場においてポジティブに捉えられると考えられるでしょう。一方、同金利水準が据え置き(あるいは上方修正)されれば、足元で米国経済の減速感が強まる中で、改めて年内の利上げが意識されることになると考えられます。
また、ドット・チャートでは、“長期見通し”の政策金利水準(2.50%)がより注目されると考えられます。この“長期見通し”は、文字通り政策金利の長期的な水準を示し、景気を刺激せず、抑制もしない中立金利に近いと考えられている金利と考えられています。8月下旬に米ワイオミング州ジャクソンホールで行われたパウエルFRB議長の講演では、事前に中立金利に関する言及が行われるのでは?との観測があったのですが、同講演では、ほとんど示されず素通りされただけに、改めて“長期見通し”の水準が注目されることになると考えられます。市場では中立金利の上振れ観測がくすぶり、それが米長期金利上昇の一因になっているのと指摘する声も聞かれます。ドット・チャートにおいて“長期見通し”の政策金利水準が引き上げられれば、長期金利の更なる上昇を促す可能性があるでしょう。
図表10 FOMCメンバーによる政策金利見通し(23年6月時点)
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
9/21に英国で金融政策委員会(MPC)が開催されます。先週にユーロ圏で行われたECB理事会において、ややサプライズとなる0.25%ptの利上げが行われたこともあり、今回のMPCでも0.25%ptの利上げ(5.25%→5.50%)が予想されています。
現状、ユーロ圏や英国は、これまでに積極的な金融引き締めを行ってきたにも関わらず、依然としてインフレの抑制に苦戦しています。そうした中で景気の減速が鮮明になってきており、両中銀の金融政策は、インフレ抑制か、景気配慮かで、非常に困難な舵取りを迫られています。市場も、中銀の苦心を見透かすかの如く、為替市場においてユーロや英ポンドが、対ドルを中心に下落が続いています。実はこのユーロやポンドに対するドル高の動きは、円相場において円安・ドル高を促す一因になっていると見られます。今回のMPCを通じて為替市場の動きに変化が生じるか注目されると考えられます。
図表11 英国の政策金利と消費者物価(コアCPI)
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
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