17年ぶり利上げ後に注目したい次の材料は?

17年ぶり利上げ後に注目したい次の材料は?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2024/03/19

日経平均は調整後、大規模緩和の解除を織り込み反発

3月第2週(3/11-15)の日経平均は、前週末比981円3銭安(-2.47%)となり、週足べースで続落。米長期金利の上昇で半導体株や関連株が下落し、相場全体の重しとなりました。また、円高ドル安が進行したことも株安の要因の一つです。翌週の日銀金融政策決定会合に向け、日銀がマイナス金利解除やETFの買い入れ停止等の政策変更を実施するとの観測が広がりました。

米金利上昇の背景には、複数の米経済指標がインフレ率の粘り強さを示したことが上げられます。2月消費者物価指数(CPI)や同月生産者物価指数(PPI)が堅調な結果となり、FRB(連邦準備制度理事会)による早期利下げ開始予定観測が後退。金利先物市場では、「6月FOMC(連邦公開市場委員会)で利下げを開始しない」と予想する割合が、1週間前の28%→40%超まで増加しました。(3/15時点)。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(3/8~3/15・図表7)の首位は、東京電力ホールディングス(9501)でした。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働への期待感が押し上げた格好です。同原発再稼働に対し、日本政府は地元同意を求める方向で、最終調整入りしていると報じられました。なお、15日(金)に2011年の福島第1原発事故以来の高値を付けた反動で、18日(月)は利益確定売りが発生。14%超の大幅安となりました。また、電気・ガス業から他2銘柄がランクインしており、内需関連として選好された面もうかがえます。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(3/8~3/15・図表8)では、電気機器から5銘柄がランクイン。米長期金利の上昇が、ハイテク株全般の売り材料になりました。銀行業からもメガバンクも含む4銘柄が顔を連ねた格好です。19日(火)の日銀・金融政策決定会合を控え、利益確定による売りが発生したとみられます。

3月第3週の初日、18日(月)は2.6%超の大幅高でスタート。16日(土)に日本経済新聞社が、19日(火)まで開催予定の日銀・金融政策決定会合で大規模緩和政策の解除が決定される見通しであることを報じ、先行き不透明感の後退から買いが入った格好です。現地時間19日(火)-20日(水)には米FOMCが開催予定で、議長発言や参加メンバーの政策金利予想(ドットチャート)の動向に注目が集まるでしょう。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(3/8~3/15)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(3/8~3/15)

17年ぶり利上げ後に注目したい次の材料は?

国内では3/18・19に日銀金融政策決定会合が開催されました。

すでに3/16(土)付の日本経済新聞で「マイナス金利解除へ」との見出しで、今回の会合でマイナス金利の解除(17年ぶりの政策金利の引き上げ)について検討すると報じられていたこと、また、3/19(火)の日本経済新聞(電子版)でも、マイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を最終的に決める方針と報じられており、市場では織り込みが進んでいました。

マイナス金利解除の思惑が織り込まれる過程では、国内金利が上昇して株式市場の重石となる場面も見られました。しかし、上述3/16の報道を受けた週明け3/18(月)は、長期国債先物が買われ(長期金利低下)、株式市場では日経平均が1,000円を超える大幅上昇となりました。金融政策決定会合の結果を待たずして、既に材料消化による買い戻しの動きが見られたようです。

日銀金融政策決定会合後の主要関心事は、19日取引終了後の植田日銀総裁の記者会見で、植田総裁が今後の金融政策についてどういった見解を示すのか注目されてきました。日銀としてはすでに「マイナス金利を解除しても当面は緩和的な状態が続く」との見解を示しており、植田総裁としてもハト派的なスタンスを維持していくものと考えられてきました。

今後も含め、緩和的な金融政策スタンスを維持する方針を示しつつも、“インフレ”に対するトーンが強まるようであれば、早いペースでの利上げを警戒する動きが出る可能性があり注意が必要です。

図表9 日本のマネタリーベースと政策金利

また、日銀金融政策会合が終了すると、市場の関心は米国金融政策に移ります。米国では3/19・20にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されますが、今回のFOMCでは政策メンバーによる経済、政策金利見通し(ドットチャート、図表10)が公表されます。

市場の注目はなんといっても政策金利であるFFレートの方向性でしょう。現状、市場では年央(6月か7月のFOMC)頃から利下げが始まり、今年末までに合計3回(0.25%×3回)の利下げが行われるとの見方を強めています。これは昨年12月FOMCのドットチャートで示されたFFレート見通し(中央値)と、ほぼ同じ見通しであり、現状の市場予想に違和感はないと言えるでしょう。

今回のドットチャートに大きな変化がなければ、同会合が市場に及ぼす影響に留まり、株式市場としては材料消化による安心感が広がる可能性があります。一方、要注意となるのは、FFレートの見通しが引き上げられる可能性と考えられます。

CBO(米国議会予算局)が今年2月に公表した経済見通しでは、米国経済の実力を示す実質潜在成長率(※)が上方修正されました。具体的には、従来は2023年から2033年にかけて潜在成長率は概ね2%を下回る1.7%から1.9%での推移が見込まれていました。しかし、新たに発表された潜在成長率は従来から上方修正され、特に2024年から2025年にかけては2.2%から2.3%と大幅修正されました。

潜在成長率の上振れは、株式市場にとってPERなどバリュエーションの上昇が容認されることになります。昨年来の米国株の上昇で指摘されていたPERの割高感などについては、ある程度、緩和されたと言えるでしょう。

※潜在成長率:国内のモノやサービスを生産するために必要なもの(生産要素)を最大限に利用したときに実現する国内総生産(GDP)の伸び。

一方、潜在成長率の上昇は、金利見通しの引き上げにもつながります。CBOと金融政策を決めるFRBとは別の組織であり、今回の潜在成長率の引き上げが必ずしもFOMCで反映される訳ではないのですが、潜在成長率の上振れによりドットチャートが上方修正される可能性があります。具体的には“長期見通し”のドットが引きあがり、それに応じて2025年末や26年末のFFレート見通しも引きあがるかもしれません。つまり潜在成長率が引きあがったことで利下げピッチが緩やかになり、それによって米長期金利が押し上げられる可能性があります。

図表10 FOMCメンバーによる政策金利(FFレート)予想(2023年12月時点)

今年の米国市場は、過度な利下げ期待が後退したことを手掛かりに長期金利が上昇しました。教科書通りに言えば、金利上昇時にはグロース株(成長株)が軟調に推移しますが、実際はエヌビディアなどAI(人工知能)関連や半導体関連銘柄が相場をけん引し、バリュー株(割安株)を大きくアウトパフォームしてきました。現状の米国市場は景気見通しの改善を手掛かりにAI関連や半導体関連株が主導する、“業績相場”にあると言えるでしょう。

足元で米国10年国債利回りは4.3%台へ上昇するなど、既に長期金利は相応に上昇しています。そうした中、今回のFOMCにおいて政策金利の見通しが引き上げられれば、長期金利は一段と上昇することが見込まれます。そうした中でFOMC後も、米国市場が業績相場を維持できるのか否かが、日本株の先行きを占う上でも重要な注目点になると考えられます。

図表11 米グロース株/バリュー株比率と長期金利

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