トランプ優勢で意識したい「意外なシナリオ」は?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2024/07/23
日経平均は大幅反落。米政権の対中輸出規制検討の報道を受け、半導体関連株が下落
7月第3週(7/16-7/19)の日経平均は、前週末比1,126円89銭安(▲2.74%)となり、週足ベースで反落。日米両市場で半導体や同関連株が大幅安となり、市場全体の重しとなりました。
同期間、SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は▲8.8%の大幅安でした。日本時間17日(水)、「米政権が同盟国に対し、半導体製造装置企業が中国に最先端半導体技術へのアクセスを提供し続けた場合、利用可能な限り最も厳しい貿易制限措置の利用を検討している」とブルームバーグ通信が報じたことが契機となった格好です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(7/12~7/19・図表8)でも、1~3位は全て半導体製造装置を扱う企業で、2桁台以上の下落率です。5位のソフトバンクグループ(9984)も、傘下の英半導体設計大手のアーム(ARM)の株価が下落したことが嫌気されたとみられます。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(7/12~7/19・図表7)では、首位の東宝(9602)の上昇率が15%超と大きく目立ちました。16日(火)に3-5月期決算を発表し、売上高859億円(前年同期比15%増)、営業利益245億円(同34%増)と3-5月期として過去最高の営業利益を更新。名探偵コナンシリーズの大ヒットのほか、他ヒット作が多数あったことや、動画配信やグッズ化等が寄与したもようです。同決算発表を受け、国内大手の証券会社による目標株価の引き上げが実施されたことも好感されました。他には、アップル関連銘柄として太陽誘電(6976)が3位にランクイン。アップルは生成AI搭載予定の新型iPhoneに業績成長期待が募っており、現地時間8/1(木)の決算発表の動向に注目が集まっています。
7月第4週(7/22-26)の日経平均は、4日続落でスタート。前週末の米株の下落に連れ安となり、半導体関連株を中心に下落。心理的節目である4万円を割り込みました。主要テック株の決算発表シーズンを控える米国市場では主要3指数が揃って反発。手掛かり材料に乏しく、薄商いでした。週内は今後、大型テック株の決算発表や米4-6月期のGDPなど、重要イベントが目白押しのため、これらを見極める展開が続くと予想されます。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(7/12~7/19)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(7/12~7/19)
トランプ優勢で意識したい「意外なシナリオ」は?
7/21、米国で4年に一度行われる大統領選挙(11/5投票)で、再選に向けて選挙活動を行っていたジョー・バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明しました。現在81歳のバイデン氏は高齢と認知機能への懸念がつきまとっていました。6/27に共和党候補のドナルド・トランプ前大統領とのTV討論会でバイデン氏は支離滅裂な発言があるなど終始、精彩を欠く討論となり、この討論会を機に民主党内外からバイデン氏の選挙戦からの撤退を望む声が一気に高まっていました。
共和党候補のトランプ氏は7/13の暗殺未遂事件を乗り越え、一段と求心力が高まる一方、バイデン氏は認知症を疑う観測報道が相次いだことや、自身3度目となる新型コロナ感染による自主隔離が公表されるなど、健康面への不安が煽られ、最終的に選挙戦からの撤退に追い込まれたと思われます。
バイデン氏は選挙戦からの撤退にあたり、後任候補に現副大統領のカマラ・ハリス氏を支持する意向を示しました。ハリス氏は既に民主党の大統領候補指名に向けて前進していると言われています。民主党の重鎮ペロシ前下院議長の支持を取り付け、ハリス氏以外の有力候補と言われていたニューサム・カリフォルニア州知事やプリツカー・イリノイ州知事、ウィットマー・ミシガン州知事も、大統領候補に名乗り出ることはなく、ハリス氏を支持する意向を示しました。
また、近年の大統領選挙は莫大な資金が必要になると言われていますが、ハリス氏はバイデン氏が寄付などで集めた9,600万ドル(約150億円)の選挙資金を引き継ぐことになりそうです。ハリス氏は8/9にイリノイ州シカゴで開催される民主党全国大会で大統領候補の指名を受けることが出来れば、11月本選に向けて正式にトランプ氏と対峙することになります。
図表9 米大統領選挙 主要候補者別支持率
ハリス氏が大統領候補に指名されれば、同氏は米国初の女性、かつ南アジア系米国人として初の大統領を目指すことになります。そして何よりも大きな変化は、81歳と高齢なバイデン氏から59歳のハリス氏へ大幅な若返りが図られることになります。もともとバイデン氏と79歳のトランプ氏による大統領選挙は老々対決と揶揄する声が少なくありませんでした。それだけにハリス氏の若さは選挙戦を戦う上で大きな武器になるかもしれません。人種的マイノリティや若者からの支持を集めることが出来れば、トランプ氏と互角以上に戦えるとの見方があるようです。
一方、ハリス氏にとってネックとなるのは知名度の低さと言われています。バイデン政権で副大統領を務めているとは言え、副大統領というポスト自体が大統領の影に隠れて目立ちにくく、とりわけハリス氏は、政治的に目立った実績が少なく、存在感の希薄さが懸念されています。選挙資金は十分だとしても、大統領選挙までに残された時間が限られる中、いかに知名度を上げていくのかが重要となります。
そして更に大きなハードルとなりそうなのが、バイデン政権に対する世論支持率の低さでしょう。このところバイデン政権に対する支持率は40%前後と低空飛行が続いています。米国実質GDPは順調な成長が続き、ナスダック総合指数などの株価指数が、今年前半に連日のように史上最高値を更新してきたことを考慮すると、バイデン政権に対する不人気さが際立ちます。これはバイデン政権で要職にいたハリス氏の人気にも通じるものがあるでしょう。バイデン氏対トランプ氏の構図で優位に立ったトランプ氏ですが、ハリス氏に代わってもトランプ氏の優位は崩れないかもしれません。
図表10 バイデン政権支持率
今回の大統領選挙では、トランプ氏がバイデン氏との対決で優位に選挙戦を進める中、市場では「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領選挙に勝利すれば)」から、「ほぼトラ(トランプ氏がほぼ大統領選挙に勝利するだろう)」、「確トラ(トランプ氏の大統領選挙が確実?)」と、徐々に表現が強まるとともに、トランプ氏の大統領返り咲きを想定した取引(いわゆるトランプ・トレード)が活発になりました。
もともと、トランプ・トレードが盛んになったのは2016年の大統領選挙。事前予想では民主党候補であるヒラリー・クリントン氏が優位と言われていたのですが、蓋を開けてみると共和党候補のトランプ氏が予想を覆して勝利しました。その直後からトランプ氏が選挙戦で公約に掲げていた法人減税や規制緩和を材料にした取引が盛り上がりました。
トランプ氏は現在、ドル安政策を標榜しているといわれます。しかし、トランプ氏が当選した2016年時の流れが起こるとすればむしろ以下の4つが具体的な取引として注目されています。(1)ドル高、(2)金利上昇、(3)銀行部やヘルスケア株、エネルギー株上昇、(4)仮想通貨上昇、などです。一方、トランプ・トレードでは対中国強硬姿勢から対中国ウェイトの高い企業として半導体関連銘柄などが敬遠される傾向があります。また、トランプ氏と対立関係にあるとされる米メガテック企業も同様に株価の逆風になると言われています。
トランプ・トレードによる日本株への影響は、ドル高(円安)、金利上昇となれば、日本株の中でも円安が追い風となる輸送用機器などの輸出株、金利敏感な銀行などの金融株など、総じてバリュー株(割安株)物色が期待されます。一方、半導体などの値がさ株やハイテク株には逆風と考えられます。こうした銘柄の価格変動の影響を受けやすい日経平均のパフォーマンスは対TOPIX(東証株価指数)よりも悪化することが想定されます。
今回の大統領選挙は、バイデン氏の撤退により大きな転換点を迎えた可能性があります。民主党がハリス氏を正式な候補者として擁立し、一枚岩となってトランプ氏に立ち向かう構図となれば、打倒トランプ氏への期待から日経平均がTOPIXよりも優位になるでしょう(逆トランプ・トレード)。しかし、その期待が空振りするようであれば、トランプ・トレード継続により、日経平均は重い値動きが続く可能性があるでしょう。
図表11 2016年大統領選挙前後の市場動向
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