乱高下に注意?二番底の可能性を排除できないそのワケは?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2024/08/20
日経平均は3,000円超の大幅高。中でも、好決算銘柄の上昇目立つ
8月第2週(8/13-8/16)の日経平均は、前週末比3,037円67銭安(+8.67%)と5週ぶりの大幅反発となりました。為替相場が円安・ドル高方向に動いたことや、米景気に対する懸念後退等が寄与した格好です。期中に発表された米7月小売売上高は市場予想を大きく上振れたほか、米小売大手の業績見通しが好調でした。さらに、米7月生産者物価指数(PPI)や同消費者物価指数(CPI)がインフレ鈍化を示したことで、米経済に再びソフトランディング期待が広がっています。
全面高商状となる中、国内で4-6月期の決算発表が一巡し、好業績銘柄に物色が集まった格好です。日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/9~8/16・図表7)の首位は、光ファイバーに強い電線大手フジクラ(5803)が30%超高と群を抜いてトップでした。8日(木)に行われた1Q(4-6月期)決算発表では、通期計画の上方修正と1株当たり10円の増配計画を発表。最終利益は従来の前期比▲2%から一転、同+17%と増益予想を見込んでいます。生成AI向け需要増加を背景に、データセンター向け配線部品の需要が高まっているようです。他にランクインした銘柄も期中に決算発表を行い好感された銘柄、もしくは直前に好決算を発表したものの円高進行で売られていた銘柄に見直し買いが入りました。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/9~8/16・図表8)は首位の▲5.2%を除き、いずれも小幅安に留まる、もしくは小幅高です。円高・ドル安で恩恵が期待される小売や食料品などから複数ランクインしました。その他は、東宝(9602)など前々週まで株価推移が好調であった銘柄が、小休止や反動で売られたもようです。
8月第3週(8/19-26)の日経平均は前日比674円5銭安(▲1.77%)と反落スタート。大幅高となった反動や利益確定で売りが広がった格好です。4-6月期の決算発表が終了し、目立った材料が数少なくなる期間となります。週内では、8/22-24は世界各国の中銀関係者や市場関係者が集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開催予定です。FRBの当面の金融政策の方向感が示される可能性があるため、9月利下げの行方を占う上でも注目を集めると想定されます。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/9~8/16)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/9~8/16)
乱高下に注意?二番底の可能性を排除できないそのワケは?
日経平均は8/5(月)に31,458円と“日本版ブラックマンデー”ともいえる急落に見舞われながらも、その後は急ピッチで値を戻し、8/16(金)に38,000円台を回復しました。ローソク足チャート(日足ベース)で見ると、8月初旬の下落で発生していた2つのマドを埋めるとともに、7/11の高値(42,224円)から8/5の安値(31,458円)に対して半値戻しを達成したことになります。
意外なほど?急ピッチで日経平均が回復した背景の1つは、海外投資家による日本株買いの動きがあったのかもしれません。投資部門別売買状況では、日経平均が急落した8/5を含む8月第1週に海外投資家は日本株(現物株)を4,500億円ほど買い越しました。8/5の相場急落時こそ海外投資家も日本株を売ったと推測されますが、その後はすかさず買い戻しに入ったと思われます。日本株が割安との判断があるからこその投資行動と言えるかもしれません。日本株売買の約7割を占める海外投資家が、安値で日本株を買い支えてくれれば、日本株の下値リスクは小さくなると考えられます。
図表9 海外投資家による日本株売買状況と日米株価指数
最近の米国株式市場が堅調に推移していることも日本株買い戻しの手掛かりと言えるでしょう。8月初旬こそ米国株も下落しましたが、日経平均に比べると下げの大きさは限定的でした。NYダウについては一時38,000割れとなりましたが、直近(8/19)では40,896ドルと高値更新が視野に入っています。
ただし、米国株がこの先も堅調を維持できるかと言えば、それは難しくなっているのかもしれません。これまでの米国株の上昇は、米国経済が緩やかな景気減速、いわゆるソフトランディングするとの期待に支えられてきました。ソフトランディングとは、インフレが緩やかに鈍化するなか、金融緩和が進むことで米国経済は減速すれども景気後退を回避する、という見方です。一見すると良い処取りのような展開ですが、米国経済がソフトランディングするためには、景気が強すぎても、弱すぎてもダメなのです。例えるならば、ゴルフのアプローチショットのようなものであり、ショットが弱ければグリーンに届かず、強ければグリーンをオーバーするため、常にちょうど良いショットが求められるのです。
最近の米経済指標を見ると、8/2(金)の7月雇用統計で失業率が4ヵ月連続で上昇するなど、景気の先行き不透明感が高まる結果となり、米国株安(と長期金利の低下)が進みました。しかし、その一方で8/15(木)の7月小売り売上高が市場予想を上回るなど堅調な経済指標が続くと、景気後退懸念が緩和し、米国株は買い戻しの動きが強まりました。
米国株式市場は、経済指標の強弱感がバランスされることでソフトランディングへの期待が維持され、堅調に推移してきたのですが、このところは弱めの経済指標を目にすることが増えてきており、経済の下振れリスクが高まっているように思えます。そして、ソフトランディングの期待を揺るがすのは、マクロ(経済動向)だけではなく、ミクロ(企業業績)でも強まっているようです。
米国では24年2Q(4-6月期)の決算発表シーズンが一巡しました。図表10の左図は、米主要企業(S&P500社)を対象に、四半期の売上高、利益の実績が、事前のアナリスト予想を上回った企業の割合を示したグラフです。24年2Q利益についてアナリスト予想を上回った割合は78.8%となっており、過去と比較しても遜色ない高水準となっています。しかし、売上高はこのところ割合が低下傾向を辿っており、24年2Qは59.2%に留まっています。つまり、米国企業としては、利益面では好調を維持しているように見えますが、トップライン(売上高)を伸ばすことは難しくなっている可能性があり、順風満帆と言い難くなっている可能性があります。
また、図表10の右図は、アナリストの予想利益額に対し、実績の上振れ率を測った指標(サプライズ比率)です。S&P500の24年2Qサプライズ比率は4.5%と、23年1Q以降で最小に留まっています。特に、テクノロジーセクターの24年2Qサプライズ比率は2.7%と22年3Q以来の低水準となりました。テクノロジーセクターの業績の上振れ率が低下した22年は、ナスダック総合指数が年間で30%超の下落に見舞われた年でした。昨年以来の米国株式市場の上昇をけん引してきたテクノロジーセクターのサプライズ比率が低下していることも、米国経済に対する懸念を強める材料と言えるでしょう。
図表10 米主要企業(S&P500社ベース)の業績推移
米国株式市場の上昇の背景をゴルフのアプローチショットに例えましたが、最近のマクロ、ミクロの状況を踏まえると、グリーンの大きさが段々小さくなるなど、グリーンを捉えることが難しくなってきているように思えます。
図表11は米国株(ナスダック総合指数)と長期金利(米10年国債利回り)のグラフです。これまではソフトランディングの期待を背景とする長期金利の低下が株価上昇の手掛かりになることが多かったのですが、最近は長期金利の大幅な低下が景気後退の可能性として、株価下落につながることも散見されるようになりました。最近の株価、長期金利の動きを見ると、10年国債利回りが3.8%から4.0%程度のレンジで推移しているときには、ソフトランディングへの期待で株価が堅調に推移する一方、このレンジから外れると、景気後退懸念か、あるいは利下げ期待の後退か、といった見方が強まって米国株の下落につながるように思えます。
冒頭で述べたように、日経平均は急ピッチに株価が回復してきたとは言え、8/16に半値戻しを達成したことで株価の回復が一服したとの見方があります。過去を振り返ると、大幅な下落を経験した株式市場において、その傷が完全に癒えるには相応の時間を要することが多く、今後も日経平均が順調に回復するのか、予断を許さないところだと思われます。特にソフトランディングの維持が難しくなっていると見られる米国株式市場の動き注意しながらも、日経平均が弱含みとなる可能性を念頭に入れておく必要があると考えられます。
図表11 米長期金利と株価指数
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