まだまだ波乱含みの日本株、意外な下支え役は?
投資情報部 鈴木英之 栗本奈緒実
2024/11/26
日経平均は冴えない展開。トランプリスクや地政学リスクの悪化が重しに
11月第3週(11/18~11/22)末の日経平均は前週末比359円6銭(0.9%)安となり、週足ベースで続落しました。下落要因は、主に以下の3つがありました。
1つ目は、地政学リスクの悪化です。ウクライナとロシアの戦争では、ウクライナが長射程ミサイルを使用し、ロシアの軍事施設を攻撃。対するロシアは、核ドクトリンの改定を実施。核使用の反撃可能性が引き上がりました。
2つ目は、トランプ次期大統領による関税強化懸念が挙げられます。海外売上高比率の高い東京エレクトロン(8035)等、主力半導体関連株の売りが広がりました。米中貿易摩擦の激化や、それによる世界経済の鈍化などが危惧されています。同期間に堅調な株価推移となった米国株式市場に対し、東京株式市場のパフォーマンスが冴えなかった要因は、これが大きいとみられます。
3つ目は、エヌビデディアの決算発表やガイダンスが、相場全体を大きく押し上げるまでのポジティブサプライズとはならなかったことです。ただ一方で、市場の期待が大きすぎたのも一因と考えられます。また、生産の遅れが取り出たされ、市場の注目を集めていた新製品「ブラックウェル」の動向に関しては、フル生産状態であることが明らかなり、プラス材料として市場で受け止められたもようです。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/15~11/22・図表7)の首位は東京瓦斯(9531)です。物言う株主で米ヘッジファンド、エリオット・マネジメントが同社株を5%超保有したと明らかになったことが、材料視されました。同ファンドは、住友商事や大日本印刷等の株式を保有しており、経営改善に期待感が広がった形です。また、6位のメルカリ(4385)も香港ファンドによる株式取得が伝わったことが好感されました。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/15~11/22・図表8)では、首位の中外製薬(4519)や6位のアステラス製薬(4503)などの医薬品がランクイン。トランプ次期大統領がロバート・ケネディ・ジュニア氏を厚生長官に起用すると発表。同氏はFDA(米食品医薬品局)に批判的な立場とされ、米製薬株安となったことが日本株にも影響を及ぼした格好です。また、7-9月期の決算発表社数が最終局面となる中、2位のあおぞら銀行(8034)は材料出尽くし、3位の電通グループ(4324)は業績見通しの下方修正など個別材料による売りも目立ちました。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/15~11/22)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/15~11/22)
まだまだ波乱含みの日本株、意外な下支え役は?
週明け11/25(月)の日経平均株価が大きく上昇した背景は、NYダウが高値を更新したことに加え、配当金が再投資されることへの期待もあるとみられます。一般的に、上場企業の配当金は権利確定日の2~3ヵ月後に支払われることになりますので、3月決算企業の中間配当金は11月下旬から12月上旬に支払われる予定です。Quick報道等によると支払われる中間配当金額は総額で8兆円規模になるとみられます。
トランプ氏の関税に対する警戒から11/26(火)は再び売りが先行するなど、まだまだ波乱含みの日本株ですが、下値を支えているのは、企業の前向きな株主還元にあるとみられます。図表9は、日経平均と日経平均の予想1株配当金を比較したものですが、日経平均の予想1株配当金が増えるにつれ、株価も上昇している形になっています。
ちなみに、2014年12月末から2024年11月22日までの約10年間で、日経平均株価は約2.2倍になりましたが日経平均の予想1株配当金は3.2倍になりました。株価以上に配当金が増えたことで、同じ期間の日経平均予想配当利回りは1.37%から2.02%に向上し、その分、株式投資の魅力は強くなったと考えられます。
今後も、企業の株主還元策の強化が続けば、中長期的な株高を期待することもできそうです。
図表9 日経平均株価と予想1株配当金(月足)
日経平均の1株配当金が増えた背景には、企業業績の向上があります。2014年12月末から2024年11月22日までの約10年間で、日経平均の1株利益は2.2倍になりました。同じ期間、日経平均の1株配当金は3.2倍になりました。企業が利益の何%を配当に回そうとしているのかを示す予想配当性向は、2014年12月末には21.9%でしたが、2024年11月22日時点では31.5%まで向上しています。
配当性向の上昇は企業による株主還元政策の強化を表していると考えられます。にもかかわらず、株価は企業成長分しか上昇していませんから、配当の魅力が増えた分、株価がより上昇しても良いように思われます。
なお、2020年から2021年にかけ、予想配当性向が急上昇しているのは、企業の予想利益が急低下したのに対し、企業が何とか配当水準を維持しようとしたから生じた「異常値」であると考えられます。2021年初めから同年半ばにかけて、予想配当性向は急低下していますが、これは配当性向が通常状態に戻る過程の出来事であるとみられます。
上場企業の利益配分方針について、配当性向を30%前後とする方針を掲げる銘柄は多いですが、配当性向30%前後であれば平均的と考えることができます。
図表10 日経平均予想1株配当金と配当性向(月足)
利益配分ルールとして配当性向を採用した場合のデメリットは、企業の利益が減少モードに入った場合、その配当も減少モードに入りやすいということです。言い換えれば、利益配分ルールに配当性向を採用した企業の配当は、業績により変動しやすく、安定性に乏しいということになります。
そうしたデメリットを避けるべく、近年は利益配分ルールにDOE(株主資本配当率)を採用する企業が増えています。DOEは株主資本(純資産)の何%を配当に回していおるのかを示しています。言い換えれば、BPS(1株純資産)の何%が1株配当金かを示した比率です。株主資本は、利益が減っても、赤字にならなければ、減らないことが多いとみられます。すなわち、利益配分ルールとしては配当性向に比べ、配当の安定度が高くなると考えられます。
日経平均のDOEは2024年11月22日時点では2.9%です。近年はDOEを利益配分ルールに定める銘柄が徐々に増えているようにみられます。配当は構造的に減りにくくなっており、株主投資の魅力は高まっているとみられます。
図表11 日経平均とDOE(株主資本配当率)(月足)
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