「トランプ関税」が市場をかく乱、先行きは?

「トランプ関税」が市場をかく乱、先行きは?

投資情報部 鈴木英之 栗本奈緒実

2025/02/04

トランプ大統領の朝令暮改の関税政策に、一喜一憂

1月第5週(1/27~1/31)の日経平均は、前週末比359円安(▲0.9%)と週足ベースで反落。日米で半導体株や関連株が軟調でした。中国新興企業Deep Seek社の低コスト生成AIが、「ChatGPT」と同等の能力を保持していると伝わり、半導体関連株やデータセンター投資拡大期待で上昇していた電線株などが大きく売られました。ただ、下落はそれらの一角に留まったため、他の内需株などは堅調でした。また、本格的な10-12月期の決算発表シーズンを迎え、好業績銘柄への個別物色も下支え材料となりました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(1/24~1/31・図表7)の首位は日本電気(6701)でした。1/30(木)の10-12月期決算発表で、通期(25.3期)会社計画の最終利益を前期比7%減の従来予想から一転、同2%増の増益となる見通しを発表。ITサービスの旺盛な需要等が堅調な業績にあるもようです。さらに、25年3月末を基準とし、1対5の株式分割実施も発表され、流動性の向上や投資家層の拡大期待なども上昇材料となりました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(1/24~1/31・図表8)は、「Deep Seek」ショックを契機に売られた半導体関連株や、データセンター投資拡大期待で買われていた電線株などが複数顔を並べました。


2月第1週(2/3~7)は、トランプ大統領による朝令暮改の関税政策に一喜一憂する展開ではじまりました。2/1(土)、トランプ大統領は、メキシコとカナダに25%の関税、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名を行いました。これに対し、カナダの首相は報復関税を行う意向を明らかにするなど、関税合戦による景気悪化が意識されました。同大統領令の発動は4日(火)から予定されていたため、週明けの日米株式市場で下落圧力となりました。

しかし、トランプ大統領は、3日(月)にメキシコとカナダへの関税発動の先送りを発表。中国とは習近平国家主席と24時間以内に電話会談すると述べています。米国による関税発動を延期するため、メキシコは不法移民や合成麻薬フェンタニルが米国側に渡ることを阻むために、国境に1万人の兵士を送ることに合意するなど、関税引き上げが交渉材料となっている状況です。

また2月第1週(2/3~7)は、引き続き続き、主力企業の10-12月期の決算発表が予定されています。日本では、4日(火)に三菱UFJ(8306)、5日(水)にトヨタ(7203)、6日(木)に東エレク(8035)、7日(金)にNTT(9432)などが発表予定。米国では、4日(火)にAMDとアルファベット、6日(木)にアマゾンとイーライリリィなどが発表予定で、業績や見通しが、相場全体の変動要因となり得る顔ぶれです。一方、7日(金)には米1月雇用統計の発表が予定されており、見極めたいとする動きが出ると予想されます。トランプ米大統領の関税強化策への警戒感も継続されるでしょう。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(2025/1/24~1/31)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(2025/1/24~1/31)

「トランプ関税」が市場をかく乱、先行きは?

2月相場は波乱のスタートとなっています。2/3(月)の東京株式市場では、日経平均株価が1,052円下げる急落となりました。トランプ大統領が、メキシコ・カナダからの輸入に対し25%の関税を、中国からの輸入に対し10%の追加関税を課すとし、2/1(土)に大統領令に署名し、2/4(火)から発効すると伝ったことが要因です。

市場では、トランプ大統領の関税政策は「ディール」、すなわち取引の一貫であり、実際の発動までは時間がかかるとの見方が有力でした。しかし、同大統領の唐突な決定により、カナダ、メキシコ、中国のみならず、米国、世界経済に大きな悪影響を与えることが懸念され、株価の急落につながりました。ただ、現地時間2/3(月)にはカナダ・メキシコへの関税発動が1ヵ月延期される合意がなされるなど、事態はめまぐるしく変わっています。

それでも「トランプ関税」への懸念は今後もくすぶり続けるとみられます。特にメキシコ、カナダ、中国から米国への輸入関税(強化)により、自動車業界への悪影響が懸念されています。米国の自動車輸入(2023年・完成車)のうち、メキシコが33%、カナダが17%を占めており、両国に生産拠点を有する、日本企業を含む自動車メーカーの競争力後退や業績悪化が懸念されます。さらに、輸入関税強化により、米国の物価上昇圧力を招き、米個人消費への悪影響も懸念されます。

2/3(月)の東京市場では、トヨタ(7203)、ホンダ(7267)などの自動車株が軒並み安となった他、日経平均株価への寄与度が大きい半導体関連株など、売りは広範囲に広がりました。

ただ、東京株式市場の株価下落は過剰反応になっている可能性もありそうです。関税は、所得の低い人ほど厳しい悪影響を受ける可能性があるうえ、報復関税も懸念され、トランプ大統領が実施継続を撤回する可能性も残るでしょう。

また、メキシコ・カナダから米国への自動車輸入に関税が課された場合、どの程度影響があるのかは冷静な吟味が必要とみられます。世界最大の自動車メーカーであり、東京株式市場の時価総額トップであるトヨタ(7203)を例として、関税問題を考えてみました。

1/30(木)に発表された同社の「2024年 年間(1月-12月)販売・生産・輸出実績」をみると、同社の北米(米国、カナダ、メキシコの合計)販売台数は273万台(世界販売台数の22%)で、北米生産台数は205万台です。後者を全社で割った北米におけるトヨタの現地生産比率は75%と計算されます。

これに対し図表9は、米国販売台数(カナダ・メキシコは除く)233万台を母数として、その供給方法の内訳を見たものです。

◎米国での現地生産

米国生産台数127万台がすべて、米国内で消費されたと仮定した場合、米国販売台数233万台に対し54.5%占めていると計算されます。

◎カナダ・メキシコからの輸入

カナダ・メキシコ合計の生産台数に日本からの輸入台数を加えた台数から両国での販売台数を差し引いた50万台すべてが、米国に輸出されたと仮定した場合、米国販売台数233万台に対し21.5%占めていると計算されます。

◎日本から米国への輸入

日本から米国への輸出台数54万台は米国販売台数233万台に対し23.2%占めていると計算されます。

◎その他

生産と販売は必ずしも等しくないことを含め、誤差項と考えられます。

以上からトヨタの米国自動車販売については、関税強化の悪影響が相対的に小さい、米国現地生産と日本からの輸入合計で77%と計算されます。仮に、トランプ大統領が米国での自動車生産を保護する目的で関税を強化したいと考えるならば、米国生産分は競争力の強化が期待される部分ということになります。関税強化の悪影響が懸念される、メキシコ・カナダからの輸入は、それらに比べると相対的に少ないと考えられます。

同様にホンダ(7267)やSUBARU(7270)の米国販売も、メキシコ生産に比べ米国現地生産が多く、三菱自動車(7211)は日本からの輸入が多いと考えられます。

ただ、米国の関税強化の懸念が残ることで、自動車を含む輸出関連企業が株式相場の主役になりにくい投資環境は続くかもしれません。仮に、関税が日本を含む世界に拡大すると、この悪影響がさらに拡大するとみられます。

図表9  トヨタ(7203)の米国販売台数の供給別内訳

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