株価急落・円安進展~為替介入はあるか?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2024/04/16
日経平均は反発。円安ドル高が下支え材料に
4月第2週(4/8-12)の日経平均は、前週末比531円47銭高(+1.57%)となり、週足べースで3週ぶりに反発しました。
同期間の米国市場はS&P500が-1.6%、ハイテク株が中心のナスダックが-0.5%と軟調でした。米国株の下落の背景には、前週から続くFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ開始観測の後退と中東情勢の緊迫化が挙げられます。現地時間10日(水)に発表された3月消費者物価指数(CPI)が想定を上振れたことは、米国の年内利下げ観測に追い打ちをかけた格好です。
米利下げ開始の後退による米株安は、日本株にとっても下落圧力でした。しかし、日米金利差が意識されたことや有事のドル買いが発生し、円安ドル高が進行。輸出関連企業などを中心に買いが進み、日本株全体の押し上げ材料となりました。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(4/8~12・図表7)の首位は、フジクラ(5803)です。米アルファベット傘下のグーグルが、日米間を結ぶ海底ケーブルの敷設に10億ドル(約1500億円)を投資すると発表。電線メーカーである同社や湖北工業(6524)などに思惑買いが入りました。また、原発再稼働による期待感で、東京電力ホールディングス(9501)が5位にランクイン。同業他社にも買いが波及した形です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(4/8~12・図表8)の首位は、セブン&アイ・ホールディングス (3382)です。10日(水)の引け後に24.2期決算を発表。その中で、イトーヨーカ堂などのスーパーストア事業の上場と一部株式の売却を行う方針、株主優待制度の新設を発表しました。他にも、小売業が決算発表シーズンを迎え、内容が嫌気されたファーストリテイリング(9983)や、イオン(8267)がランクインしています。
4月第3週は下落スタート。中東情勢の緊迫化が依然として続いています。米国では、銀行を皮切りに米決算発表シーズンがスタートします。しばらくは、企業決算の動向にも注目が集まるでしょう。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(4/5~4/12)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(4/5~4/12)
株価急落・円安進展~為替介入はあるか?
3月下旬以降、概ね1ドル151円台で膠着状態にあった円相場は、4/10発表の米3月消費者物価が上振れし、インフレリスクが意識されたことを受けて、遂に防衛ラインと見られていた152円台を突破してドル高・円安が進みました。更に、週明け15日(月)は、米3月小売売上高が市場予想を上回ったことで、円相場は一段と円安に拍車がかかり、一時154円台半ばと34年ぶりのドル高・円安水準へ到達しました。こうした急ピッチな円安に歯止めをかけるべく、政府、日銀による円買い介入(為替介入)がいつ実施されてもおかしくない状況と言えるでしょう。
図表9 日経平均と円相場
そこで本稿では、前回(2022年)の為替介入を振り返りながら、今回の為替介入が予想されるタイミングと、その効果について考えてみます。
(為替介入と株式市場の影響についての考察は、前回の225の『ココがPOINT!』「意外な円高リスクに要注意!?その理由は?」を併せてご参照ください)
財務省が公表している『外国為替平衡操作の実施状況』によると、2022年に為替介入は計3回行われました。1回目は22/9/22(木)に約2.8兆円の円買い介入。2回目は10/21(金)で約5.6兆円。3回目は10/24(月)で0.7兆円でした(図表10参照)。円相場は10/21に1ドル=151円95銭へ円安が進んでいましたが、その後は反転して翌23年1月には1ドル=130円割れへドル安・円高が進みました。
注目点は3回の為替介入のうち2回は休日前(9/22は3連休前)に行われたということです。また、介入が実施されたのは、早朝や夕方などいずれも東京株式市場で現物取引が行われてないタイミングで実施されたと見られます。為替介入が実施される前に明確な予告は無く、10月は実施後も介入の有無を明らかにしないステルス介入が行われました。
為替介入が休日前の株式取引が行われていない時間帯に行われるのは、株式市場に対し為替介入の影響が及ぶのを少しでも軽減する狙いがあると思われます。円高へ誘導する為替介入は日本株の輸出株にとって逆風となり、日経平均にとっても下押しにつながると見られます。実際、22/9/22(木)の為替介入では、週明け9/26(月)の日経平均が700円超下落しました(下落率は▲2.7%)。現状の日本株は、値がさハイテク株と共に、円安進展による輸出株の上昇が相場をけん引してきただけに、為替介入により輸出株を売る動きが大きくなる可能性があります。それだけに介入のタイミングとしては、休日前に行われる可能性が高いのではないかと考えられます。
図表10 ドル円相場とユーロ・ドル相場(22年7月~23年3月)
為替介入が実施されたと仮定して、その効果について考えてみましょう。2022年9月、10月の為替介入は、1ドル=151円後半から翌年1月にかけて130円台割れへドル安・円高が進んでおり、これだけを見れば高い介入効果があったと見えます。
ただし、この当時は円相場(ドル円相場)でドル高・円安が進行する裏側で、ユーロの対ドル相場(ユーロ・ドル相場)が1ユーロ=1ドルの等価(パリティ価格)を割り込んでユーロ安・ドル高が進んでいました。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で欧州経済は高インフレと景気減速が鮮明となるなかで“ユーロ離れ”ともいえる動きとなり、これがドルを押し上げたことで、ドル円相場でもドル高・円安に寄与したと考えられます。しかし、その後、ユーロ圏におけるインフレリスクが後退したことでユーロは対ドルで買い戻されることとなり、ユーロ高・ドル安が進みました。この動きが、為替介入実施後の円相場においてもドル安・円高へ寄与したものと考えられます。
現状のユーロ・ドル相場は1ユーロ=1.06ドル台でユーロ安・ドル高が進行しています。ただ、現状のユーロ安はインフレが落ち着いてきたことで利下げが視野に入ってきたことが要因です。先週のECB理事会では、6月の会合で利下げが開始される可能性が改めて示されました。ユーロ圏では金利低下が見込まれる中で、少なくともユーロ相場が対ドルで大きく上昇するタイミングではなく、2022年に見られたようなドル安・円高効果は期待し難いと考えられます。
世界経済の発展により、長期的に為替の取引量は増加傾向にあるなか、為替介入の効果は低下していると言われています。仮に為替介入が実施されたとして、少なくとも2022年の為替介入を大きく上回る規模とならないのであれば、円高への転換を見込むことは難しく、あくまで円安進行のスピードを遅らせるためのスムージング介入に留まると考えられます。
日経平均への影響について考えてみましょう。前述したように為替介入が行われ、急激にドル安・円高が進めば、外需株を中心に日経平均を大きく下押しすることが予想されます。ただ、スムージング介入に留まるのであれば、円安トレンドが継続するため、円安を手掛かりとした物色は続くと考えられます。もっとも、前回の225の『ココがPOINT!』「意外な円高リスクに要注意!?その理由は?」で紹介いたしましたが、米国長期金利の上昇に警戒する必要があります。これにより“業績相場”が崩れ、AI関連やハイテク株が大きく下落するようであれば、リスク回避の円高の動きが強まって日本株の逆風になると考えられます。
図表11 ドル円相場とユーロ・ドル相場(23年10月~)
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