米消費者物価よりも重要!?日経平均に影響する注目経済指標は?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2024/08/13
日経平均は波乱の展開
8月第1週(8/5-8/9)の日経平均は、前週末比884円70銭安(▲2.46%)と週足ベースで4週続落と調整局面が継続しています。現地時間2日(金)に発表された米7月雇用統計が景気減速を示し、米景気への懸念が拡大。米国株が下落し、5日(月)の日経平均は▲4,451円と史上最大の下落幅を記録しました。欧米投資家によるリスクオフムードの拡大や、日米金利差縮小を見越した円キャリーの巻き戻しによる円高進行が重しとなった格好です。
その後は日銀の内田副総裁によるハト派発言や自律反発を見越した買いが入り、6日(火)は+3,217円と反発。しかし、8/9(金)時点で7/11(木)の最高値(終値基準)から17%超安の水準です。東証プライム市場の週間売買代金は34兆円と過去最高となりました。歴史的波乱相場の中では、個別銘柄の値動きが相場全体に連動する場面が多々見受けられました。そのような中でも、4-6月期の決算発表を行った企業は、内容によってまちまちの値動きとなったもようです。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/2~8/9・図表7)の首位は、SBI証券売買代金ランキングでも上位のレーザーテック(6920)です。7日(水)引け後、24.6期の本決算を発表。4-6月期の受注が前四半期比大幅増(763億円→1,239億円)で過去最高となった上、今後の受注に関しても前向きな見通しを示したことが好感されました。空売り投資家に指摘されていた会計処理疑惑も、不正はなかったとの調査結果を公表しました。
5位にはフジクラ(5803)がランクイン。生成AI向けの需要拡大を背景とした、データセンター向け製品の販売増への期待が募り、年初来から7月頭にかけて株価は急騰していました。その後、株価は高値から一服状態でしたが、8日(木)の決算発表で25.3期計画の売上高・各利益項目及び年間予想配当の上昇修正を実施。純利益は前期比2%減→同17%増と減益から一転増益見通しとなった格好です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/2~8/9・図表8)の首位は、SUMCO(3436)でした。7日(水)の引け後に1-6月期決算発表を実施。主力であるウェハ需要の戻りが鈍く、営業利益が前年同期比56%減と各利益項目で大幅減益となりました。2位の資生堂(4911)は、中国や利益率の高い免税向けの需要低迷が痛手となり、大幅減益となったことが嫌気された形です。
8月第2週(8/13-16)の日経平均は前日比465円高で寄り付き上昇スタート。米長期金利の低下一服に伴い、円高ドル安が小休止したことや米テック株の上昇が追い風となりました。米景気後退が日米両市場で下げ材料になる中、週内は米景気の動向を占う上で重視される米7月小売売上高や小売大手の決算発表が予定されており、警戒ムードが依然として漂っています。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/2~8/9)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/2~8/9)
米消費者物価よりも重要!?日経平均に影響する注目経済指標は?
先週の日経平均は週初8/5(月)に過去最大の下落幅(▲4,451円)を記録しましたが、翌8/6(火)に一転して過去最大の上昇幅(+3,217円)と乱高下しました。その後、株価指数としては戻り歩調にあり、相場が持ち直しているようにも見えますが、一日の値動きの幅が非常に大きく、依然として不安定な状況が続いているようです。このようにボラティリティ(値動きの荒さ)が大きい状況では、波乱材料が出てくると、再び相場が大きく動く可能性があり気が抜けないと言えるでしょう。こうした状況のもと株式市場の動向を占う上でも、今週の日米で発表される経済指標には、いつも以上に市場の関心が高まっていると考えられます。
国内市場では8/15(木)に4-6月期GDP統計が発表されます。実質GDP成長率の市場予想は前期比+0.6%(年率+2.3%)と2四半期ぶりのプラス成長が見込まれています。主要項目別では、個人消費に相当する民間消費支出の予想が前期比+0.6%と5四半期ぶりのプラス成長が見込まれているほか、民間設備投資の予想が同+0.8%と2四半期ぶりのプラス成長が見込まれており、経済成長の下支えが期待されています。
もっとも、高い経済成長は日本株の足かせになる可能性には注意が必要でしょう。
そもそも8月の日経平均が大幅下落で始まった事の一端は、日銀が金融政策の方向性について引き締め見通し(タカ派)を示したことが挙げられます。その後、株式市場の急落を受けてタカ派懸念は後退しましたが、8/6(火)発表の6月実質賃金指数の前年比伸び率が、22年3月以来のプラスに転じるなど、賃金上昇の動きが鮮明になっていることに加え、実質GDP成長率が上振れするようであれば、市場でタカ派化への懸念が蒸し返される可能性があります。
8/6の225の『ココがPOINT!』「歴史的な値動きの日経平均!おさえておきたいこととは?」で指摘したように、最近の日経平均は円相場見合いの動きとなっているだけに、日銀のタカ派警戒により国内金利が上昇すれば、円高進行で日経平均の下落基調が強まる可能性があります。好調な経済指標が、皮肉にも株価の重石になることが想定されます。
図表9 日本 実質GDP成長率
一方、米国では8/13(火)に7月生産者物価(PPI)、14(水)に7月消費者物価(CPI)など重要なインフレ指標の発表が相次ぎます。もともとの米国市場では、こうしたインフレ指標は株式市場の材料として重要視されてきました。具体的には、コロナショック以降に上振れしたインフレ率が、FRBが掲げるインフレ目標値(2%)に向けて減速するか否かです。インフレ率が順調に鈍化すれば、市場では早期金融緩和観測が高まり、米国金利が低下して、ハイテク株を中心とする成長株(グロース株)が買われるなど株式市場にプラスに働きました。
もっとも、現状(8/12時点)、市場は9月開催のFOMC(連邦公開市場委員会)で1回分(0.25%)を上回る利下げ、2024年末に4回分(0.25%×4回=1.00%)の利下げ、と既に十分すぎると言って差し支えがない程の利下げ見通しが織り込まれています。あまり急激な利下げは、かえって米国景気の先行き不安を煽ることになるとみられます。つまり、現状の米国市場はインフレ鈍化(による金融緩和観測)よりも、景気後退を回避することの方が、より重要と捉えられていると考えられます。
図表10 政策金利(FFレート)見通し
そして米国景気を占うという観点で見れば、当面は上述のインフレ指標よりも8/15(木)発表の7月小売売上高や同日発表の7月鉱工業生産の方が、より市場で重要視される統計と言えるでしょう。特にGDPの約7割を占める個人消費を測る指標となる小売売上高は、自動車を除いた事前予想は前月比+0.1%と6ヵ月連続のプラス成長が見込まれています。予想通りの堅調な消費が示されれば米景気不安の後退につながる一方、統計結果の下振れには要注意となります。日本株としては、米国市場でリスク回避の株安と共に、米国金利が低下すれば、円相場で円高・ドル安が進み、株安になることが想定されます。
日経平均は8月の急落相場でボラティリティが急上昇しましたが、一度、急上昇したボラティリティが落ち着きを取り戻すには相応の時間を要するものと考えられます。今週の国内市場はお盆休みで機関投資家の動きが鈍くなることが想定される等、売買高など市場エネルギーが落ちやすく、それだけにちょっとしたことで株式市場が上下に振られやすくなるため、想定外の動きとなる可能性に要注意と考えられます。
図表11 米国 小売売上高
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