トランプ氏返り咲き!株高期待の日経平均の盲点は?

トランプ氏返り咲き!株高期待の日経平均の盲点は?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2024/11/12

トランプトレードによる株高進む

2024年の最大の注目イベントと目された、米国の大統領選挙の結果が判明。共和党のトランプ氏の再選確実が明らかとなり、132年ぶりに大統領が退任後に返り咲くことが決まりました。11月第1週(11/5-11/8)の日経平均は、前週末比1,446円70銭高(+3.8%)と週足ベースで大幅続伸。現地時間11/5(火)に投開票が開始され、トランプ氏の優勢が伝わるごとに、11/6(水)の日経平均は上げ幅を拡大し、1,000円超の大幅高で取引を終えました。

米国でも、トランプ氏当確の結果を受けた直後の11/6(水)の米主要株価3指数は揃って最高値を更新するなど、株式市場にとっては追い風が吹いた形です。トランプ氏が掲げる、減税等の景気刺激策への期待感が窺いしれます。また、景気刺激策による米インフレ加速が意識され、日米金利差が拡大。本年7月以来の水準までドル高円安水準をつける場面もあり、1ドル155円が節目となっているもようです。

米大統領選で大きく相場が動いた一方、前週に続き7-9月期の決算発表が本格化し、値動きが目立った銘柄も複数ありました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/1~11/8・図表7)では、首位の古河電気工業(5801)は約30%高まで急騰し、連日ストップ高をつけています。同社は7日(木)の引け後に決算発表を行い、通期(25.3期)会社計画の大幅上昇修正を実施。生成AI処理向けのデータセンター投資が増加するに連れ、光ファイバー需要が続くとの期待から、フジクラ(5803)や住友電気工業(5802)など電線各社の業績見通しが好調です。また、2位の川崎重工業(7012)や、6位のIHI(7013)は、トランプ氏の大統領選再選を織り込み、地政学リスクが悪化するとの見方から防衛関連銘柄として選好されました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/1~11/8・図表8)の首位は、フリマアプリの運営等を行うメルカリ(4385)です。5日(火)に今期1Q(24.7-9月期)決算発表で示した流通総額(GMV)が、国内と米国ともに軟調な推移となったことが嫌気されました。他の銘柄も決算を通過し、売られた銘柄が多数で、5位のヤマハ(7951)や8位の資生堂(4911)は中国事業での不振が重しとなっているもようです。

11月第2週(11/11-15)は、トランプトレードによる過熱感が一服。そして、7-9月期の決算発表社数が佳境を迎える週です。東エレク(8035)やソフトバンクG(9984)といった、日経平均構成銘柄の中でもウェイトが高く、指数全体への影響が大きくなりやすい銘柄が発表予定です。トランプ氏再選確実で、米長期金利の上昇による業績押し上げ期待で買われたメガバンクも、揃って14日(木)7-9月期決算を発表予定で、注目を集めています。また経済指標では、13日(水)に発表予定の米9月消費者物価指数(CPI)に注目です。前回は、インフレ鈍化の流れが止まったことを示唆する結果となりました。ただ今後は、トランプ氏の掲げる景気刺激策が意識されていることもあり、米長期金利の上昇に警戒する必要がありそうです。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/1~11/8)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/1~11/8)

トランプ氏返り咲き!株高期待の日経平均の盲点は?

先週の米国大統領選挙は、共和党候補のドナルド・トランプ氏が、民主党候補のカマラ・ハリス氏に対し、激戦州と言われた7州のすべてで勝利を収めるなど、順当勝ちとなりました。大統領選挙の開票は日本時間11/6の午前から始まりました。事前の予想では結果が判明するまでには数日間を要するとの見方がありましたが、実際は投票開始後、早々にトランプ氏が優勢との見方が強まり、その日の午後にはほぼ大勢が判明。日経平均は朝方から買い先行で始まると、徐々に上げ幅を拡大し、結局、終値は前日比+1,005円の39,480円と大幅上昇となりました。

一方、米国市場でも大統領選挙翌日となる11/6のNYダウが前日比+1,508ドルの43,729ドルとなるなど、トランプ氏の返り咲きを好感する買いが入ったと見られます。また、先週の225ココがPOINT「米大統領選挙後は株高のアノマリー!?注意点は?」でも指摘したように、どちらの候補が勝利した場合でも、大統領選挙が終わると年末に向けて株高になる傾向があります。今回もNYダウは大幅上昇した後も堅調に推移し、週明け11日には終値で44,000ドルの大台に到達しており、ここまでのところアノマリー通りの動きとなっています。

図表9  日経平均とNYダウ

米国では株式の上昇と並んで、トランプ氏が勝利したことを受けて長期金利の上昇が鮮明となっています。米10年国債利回りは9月半ばの3.6%をボトムにじりじりと上昇傾向が続き、11/6には一時4.4%台へ上昇しました。トランプ氏による上げ潮的な経済政策への期待なのか、あるいは関税引き上げによるインフレの昂進への思惑なのか、長期金利の上昇要因については議論の余地がありますが、金利上昇の動き自体はトランプ氏が大統領選挙で勝利した2016年と同様となります。そして金利上昇を伴う株高は“トランプトレード”の特徴の1つと言われています。

また、米金融政策の方向性も今後の金利上昇を後押しする可能性があります。米大統領選挙の2日後に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利であるFFレート誘導目標が0.25%pt引き下げられました(4.50-4.75%)。政策金利の引き下げは0.50%ptの大幅利下げが行われた前回に続く措置であり、市場予想通りの結果ですが、市場における(FRBの想定よりも急ピッチな)利下げ観測は後退しています。この背景には米国経済が個人消費主導で堅調に推移していることが挙げられますが、この傾向が続けば、長期金利の上昇を促して“トランプトレード”を後押しすることも想定されます。

図表10 FFレート見通し(市場予想 VS FOMC)

前述のとおり大統領選挙後の米国株式市場は一見するとアノマリー通りの堅調な展開です。ただし、その一方で気をつけたいのがハイテクなどのグロース株(成長株)の動きです。図表11は長期金利(米10年国債利回り)とグロース株のウェイトが大きいナスダック総合指数の推移を見たグラフです。本来、グロース株は長期金利の上昇に弱いのですが、最近の動きを見ると長期金利の上昇が続いているにもかかわらず、ナスダック総合指数は金利上昇に逆らうかのように堅調に推移しています。

ハイテク株などのグロース株が堅調に推移している背景には、AI(人工知能)の高成長期待や、10月下旬に行われた米主力テクノロジー企業の決算内容が好感されたこと、あるいは11/21(木)に決算発表を控えるエヌビディアへの期待などが考えられます。いずれにしても、こうしたグロース株の上昇は、前述した“トランプトレード”とは別の要因で上昇していると捉えておく必要がありそうです。AIへの期待などが一巡してくれば、トランプトレードによる金利上昇が重石となる局面が訪れる可能性に注意する必要があると思われます。

日本株としては、米国金利が上昇したことによる銀行株物色や、円安進行による輸出株物色が、いわゆるトランプトレードとしての物色の柱になるでしょう。ただ、日経平均株価としてはハイテク株や値がさ株の値動きの影響を受けやすいため、米国ハイテク株物色が一巡したタイミングで、米金利の上昇が指数の上値を抑制する可能性がありそうです。

図表11 米10年国債利回りとNASDAQ総合指数

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