「円安=株高の法則」はどうなった?

「円安=株高の法則」はどうなった?

投資情報部 土居雅紹 根津真由子

2026/07/21

日経平均、週間で過去最大の下落幅 AI・半導体株安が波及

■ 7月第3週(7/13-7/17)の株式市場動向

日経平均株価の7/17(金)終値は64,141円12銭で、前週末比4,416円61銭安(-6.44%)と週足ベースで急落。週間の下げ幅として過去最大を記録しました。
AI・半導体株の過熱感から7/13(月)に反落したものの、韓国株の持ち直しや蘭ASMLの好決算を受け7/14・15は2営業日続伸し68,751円51銭まで上昇しました。
しかし、7/16(木)は米半導体株安とKOSPI急落を受け3営業日ぶり反落、7/17(金)も米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の急落を引き継ぎメモリー関連中心に売りが止まらず、日経平均株価は2,694円42銭安(歴代5位の下げ幅)を記録。キオクシアホールディングス(285A)がストップ安となるなどAI・半導体株の総崩れで2営業日続落しました。


■ 騰落率の傾向(7/10-7/17)(図表4・5)

・上昇率上位:良品計画(7453)が上昇率トップ。同社は7/10(金)に2025年9月~2026年5月期の連結決算を発表。原価低減や値下げの抑制等が功を奏し、営業利益は808億円(前年同期比+36.0%)となりました。また、同日に2026年8月期の通期業績予想の上方修正を発表。営業利益予想を従来の890億円から980億円(前期比+32.7%)に引き上げました。これらが好感され、7/14(火)には株式分割考慮後の上場来高値を更新しています。

・下落率上位:キオクシアホールディングス(285A)が下落率トップ。世界的な半導体メモリー株安の流れを受け、6/22(月)につけた上場来高値(11万2,700円)から半値以下となりました。これにより、日本企業の時価総額ランキングでも5位に後退。7/16(木)に米連邦地裁が同社の連結子会社と米国子会社に対して特許侵害の評決を出したことも売り材料となった模様です。
同社のほかにも下落率上位には、SUMCO(3436)やイビデン(4062)などの半導体関連株が多く並んでいます。


■ 7月第4週のスタート(7/21)

現地時間7/22(水)にはGoogleの親会社米アルファベットが2026年4月~6月期の決算発表を予定しています。
同社の決算発表が好材料となり、大幅安となっているAI・半導体関連株に見直し買いが入るかが焦点となりそうです。



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図表1 日経平均株価の値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表4 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(7/10-7/17)

図表5 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(7/10-7/17)

「円安=株高の法則」はどうなった?

アベノミクスが生んだ「円安=株高の法則」

2012年11月の衆議院解散から始まったといえるアベノミクス以降、円安が進めば日経平均株価が上がるという流れが続いてきました(図表6)。国内株の取引が始まる前に米ドル/円相場の米国時間での水準を確認して、円安が進んでいるようなら、「日経平均株価は高くはじまるかも」と考える、いわば「円安=株高の法則」ともいえるものでした。


そこで、米ドル/円相場の日経平均株価への影響の度合いを概算で推計するために、日経平均株価の週次の変化率を米ドル/円だけで説明する単回帰分析で確かめました。その結果、全期間(2007/1/5~2026/7/10)では、米ドル/円相場が1%動くと、日経平均株価が平均すれば約0.91%動くという統計上の関係が確認※されました。分かりやすい状況で考えてみるなら、仮に日経平均株価65,000円、160円/ドルという状況では、「米ドル/円相場が1円動いたら日経平均株価は65,000×1/160×0.91=約370円動く」という関係といえます。 
※米ドル/円相場、日経平均株価ともに週終値の単純変化率を有意水準1%で分析。観測数1018。但し決定係数は0.17と低く、説明力は限定的。


長期トレンドとしては「円安=株高の法則」があるかのように見えますが、2012年末以降であっても、必ずしも円安と株高の関係が成立していないように思える期間もあります。そこで、2007年から2026年までの年毎のデータで区切って同様に単回帰分析すると、2007年~2010年と、2012年から2019年にかけて、両者の週次の値動きに統計的に有意な関係が観測されました。各年の日経平均株価の平均水準をもとに「米ドル/円相場が1円動くと日経平均株価が何円動いたか」を試算すると、2017年の約148円から2018年の約325円まで、投資家の体感に近い数字が並びました。例えば2013年は約183円、2014年は約283円、2015年は約197円、2019年は約262円でした。「円が1円動けば日経平均が200円〜300円程度動く」、そんな時期があったともいえます。この時期は「米ドル/円相場を見て日経平均株価の値動きを考える」ことが、単なる印象論ではなく、ある程度の数字の裏付けを伴って成立していたと言えます。言い換えれば、海外売上比率が高い企業の業績向上期待を通じて円安から株高を連想する、という分かりやすい物語が機能していた感がある局面でした。


消えた連動?

コロナショックの2020年を境に、この法則は崩れ始めます。2020年から2024年までの各年と2026年7月10日までの年初来データでは、米ドル/円相場と日経平均株価の値動きに有意な関係を見いだせなくなりました。コロナ禍での急変動、その後の世界的な金利上昇と物価高のなかで、日本株の関心は為替よりも米国の金融政策やハイテク株の行方へと移っていきました。唯一の例外が2025年で、この年だけ連動が復活し、ドル円が1円動くと日経平均が約200円動く関係が観測されました。トランプショックでの円高と株安、高市相場での円安と株高がこの背景にあったと推定されます。


なお、米ドル/円相場だけで日経平均株価の値動きを説明しようとするこのモデルの説明力そのものが、全期間を通じて決定係数R²は0.17と低かったという点には注意が必要です。有意とされた年ですら、米ドル/円相場の変動で説明できていたのは値動きの一部にすぎません。「円安=株高の法則」は、アベノミクスが始まった2012年からコロナショック前の2019年までの期間では存在したと言えるものの、あくまで目安であったといえるでしょう。



図表6 日経平均株価と米ドル/円相場(2007/1/5-2026/7/10)



米国株とユーロ/円相場を加えた3変数なら説明力上昇

では、米ドル/円相場以外を考慮するとどう変わるのでしょうか。米ドル/円相場に、ユーロ/円相場と米国の株価指数(S&P500、あるいはフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数))を組み合わせた3変数の多変量分析を行うと、説明力が高まりました。単回帰で決定係数R²が0.17だった説明力は、S&P500を加えると約0.50、SOX指数を加えると約0.45まで上昇し、全期間で見ればいずれの係数も統計的に有意でした。


日経平均株価は為替だけでなく、世界の株式市場と連動していることが、はっきりと数字に表れます。とりわけ興味深いのは、多変量分析にすると米ドル/円相場の係数が0.91から約0.45〜0.48へと大きく低下する点です。これは、単回帰分析では米ドル/円相場が一手に拾っていた「世界経済の変動」、言い換えるなら「世界的なリスクオン・リスクオフの波」が、米国の株価指数を説明変数に加えることで、そちら側へ振り分けられたと考えられます。つまり、単回帰分析では米ドル/円相場の影響と見えていたものの、米国の株価指数と共有する変動を米ドル/円相場の係数が取り込んでいた可能性があります。


為替の影響が減り、半導体が前面に

全期間では分かりにくいものの、年別に追うと関係の変遷が窺えます。2012年〜2019年は米ドル/円、ユーロ/円相場も米国の株価指数も、日経平均株価の値動きとの有意な関係性を示す年が多かったのに対し、2020年〜2024年は米ドル/円相場の単回帰分析では非有意の年が目立ち、代わりに多変量分析では米国の株価指数の係数がS&P500でもSOX指数でも一貫して強く出ていました。さらに、ユーロ/円相場と米ドル/円相場の説明力は2020年以降そろって後退しました。米国の株価指数のうちS&P500は2025年まで一定の説明力を保ちましたが、2026年7月10日までの年初来データでは有意な関係が見出せませんでした。2026年7月10日までの年初来データでは、多くの変数がそろって説明力を失うなかで唯一、SOX指数だけは日経平均株価との関係性が確認できました。この背景にあったのは、値がさの半導体関連株が指数を強く押し上げる、日経平均株価の「疑似半導体指数化」と考えられます。


今後の関係は?

アベノミクス以降で日経平均株価への米ドル/円相場の関係が希薄になった時期は、2020年~のコロナ危機、2022年~のウクライナ戦争、2022年~2023年の米国の金融引き締め、2025年以降は、トランプ第二次政権発足後の米国の外交・経済政策の混乱など、立て続けに大きなイベントが発生していました。S&P500との関連性が薄れた2026年前半は世界的にAI・半導体関連株の突出が目立っていました。


今後、米国の経済・外交政策を嫌気して米国株や米ドル建資産の保有割合を減らす動きが進んだり、日本の政府主導の成長戦略が具現化したり、企業努力によって日本企業のROEが高まったりするようであれば、仮にAI・半導体関連株相場が一服しても、米ドル/円相場の値動きだけで日経平均株価を語れる時代には戻りにくいと思われます。


一方、数年単位で見るなら、米ドル/円相場は、今後も日経平均株価の上昇要因の一つとなる可能性があります。円安が進めば、海外売上の割合が高い企業が構成比上位に並ぶ日経平均株価では、製品の輸出では為替差益や現地での競争力強化につながり、現地生産や現地企業への投資であれば円換算での連結収益向上が期待できます。さらに、円安起因のインフレが日本国内で進めば、通貨価値の減少という形ではありますが、日本株全体の水準が切り上がりやすくなると考えられます。


このため、「円安=株高の法則」はアベノミクス当時ほど分かりやすい状況ではないものの、市場が平常運転に戻れば再び影響が大きく見える局面があると考えておくことが現実的だと思われます。





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