FRB・日銀そろって利上げ?日本株の3つのリスクを読み解く

投資情報部 土居雅紹
2026/10/06
「金利がある世界」への転換——30年ぶりの金融環境変化と株価のジレンマ
2026年9月22日にニューヨークで行われた日米首脳会談で、トランプ大統領から円安への懸念が示されました。これに対して、高市首相は「一般論として円の過小評価は問題である」とし、両国で認識を共有したことを9月25日に明らかにしました。
もっとも、2026年の為替介入額は7月と8月の2ヵ月で15兆3,993億円に達し、8月までの年初来の累計額は27兆1,342億円(財務省発表、2026年分)に上る一方、円安基調そのものは変えられていません。この背景には、中東情勢の緊迫化に伴う原油高による我が国の貿易収支の悪化と実需による継続的なドル買い需要があります。一般論として、こういった状況では各国で通貨防衛策として政策金利の引き上げが検討されるところですが、そもそも日本は金利水準が米国よりも低く、日米の金利差を縮小しなければ円安圧力は弱まりにくいという状況が続いています。
もちろん、日銀の金融政策の目的は「物価の安定」であり、為替水準の操作を目的として利上げを行うことはないとされています。しかしながら、極端な円安を放置すれば輸入インフレを通じた物価上昇を招きかねず、また、日米首脳間で懸念が共有されている為替水準について一切配慮しないということも考えにくいところです。
■日本:金利のある世界への回帰
図表1は日銀の誘導目標である無担保コールレート(翌日物)と、コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数、前年同月比)、日経平均株価と米ドル/円レートの過去30年の推移です。 インフレの指標として使われるコアCPI(図表1の紫色点線)を見るとほとんどの期間で0%を下回るデフレであったことが分かります。1997年、2014年、2019年に上向きかけたように見えるところは、景気が回復しかけたタイミングで消費税の増税による上乗せ分の影響を受けたものです。残念なことに、増税による景気後退で、コアCPIが再び0%を下回る水準に沈むことを繰り返してきました。結果として、無担保コールレート(図表1のオレンジ色線)も上昇し続けることはなく、長期にわたって日本は実質的に金利がないデフレの世界でした。これに円高も加わり、日経平均株価は低迷を続けていました。
しかし、コロナ禍後の世界的なインフレが日本にも遅れてやってきたことに加えて、2022年のウクライナ戦争による原油価格の上昇に円安による輸入インフレが加わって状況が変わりました。2024年3月にはマイナス金利政策が終わり、政策金利の引き上げが始まりました。なお、日銀は2026年9月の金融政策決定会合で政策金利を1.25%へ引き上げており、1995年4月以来の水準に達しています。つまり、日本が「金利がある世界」にようやく戻ったわけです。
■「FRBに逆らうな」の世界
金利がある世界に戻ると、「金利が上がると株価が下がる」という図式が戻ってくる可能性が高くなります。仮に利上げペースが一段と加速した場合、金融機関による民間向けの各種融資金利がさらに上昇することになります。具体的には住宅ローンの返済総額が増え、設備投資計画のハードルが高くなります。実際のところ、中央銀行が政策金利を引き上げるのは、経済活動を抑制してインフレ率を下げることを意図しているためです。つまり、住宅着工や設備投資の下押しなどを通じて企業業績が悪化し、株価が下がることもやむなし、あるいは株価を下げること自体を通じて、逆資産効果によってインフレを抑えるという意思表示といえます。中央銀行が株価を下げてもよい、あるいは下げようと考えているときに、それに逆らうのはリスクがあります。米国の投資格言に「FRBに逆らうな」というものがありますが、金利がある世界ではこれが常識ともいえます。
図表1 過去30年の無担保コールレート(翌日物)、コアCPI、日経平均株価と米ドル/円レートの推移
米株安・円高反転・内需減速の3つのリスク
■米国:利上げ再開が意識させる「危機一髪」リスク
図表2は過去30年の米国の政策金利(FFレート)、インフレ率の指標として見ることが多いCore PCE Price Index(コアPCE物価指数・前年同月比)と株価(S&P500とNasdaq100)の推移です。日本と異なり金利が機能していた米国では、政策金利と株価の間に分かりやすい関係が成立しています。
典型的なパターンは、景気上昇過程で、まず株価とインフレ率が上昇します。インフレ率が上昇してきたところで、それを冷やすために政策金利(FFレート)の利上げが行われます。当初は政策金利が上がってもなかなかインフレ率は収まらず、株価も上昇を続けます。政策金利は効果が大きいものの、精緻な管理が難しい政策手段なので、タイムラグがあり、効きすぎてしまうこともしばしばあります。金利上昇は住宅着工や設備投資を通じて企業収益に影響し、あるとき株価がいきなり下落に転じます(図表2の赤色縦点線のタイミング)。 「まだ大丈夫かな」と様子を見ながら中央銀行が利上げを繰り返し、あるタイミングで「ボン」と株価が急落する様は、玩具の「黒ひげ危機一発」のようです。
2000年のITバブルと2007年までのサブプライムバブルはこのセオリー通りの展開でした。コロナ後のインフレ退治の局面では、2021年12月にFRBが動く前から株価が下落したように見えますが、実はその1カ月前の2021年11月に、FRBにより資産購入の増加ペースを減らすテーパリングが開始され、民間の各種融資金利の上昇が予見されたことで株価の下落が始まっていました。その意味では、早いタイミングではあったものの、金融引き締めの結果として、「ボン」となったといえます。
米国の現状をみると、2026年9月のFOMCでは3年ぶりとなる利上げが全会一致で決定され、同時に公表された経済見通しでは年内にあと1回の利上げが示唆されました。実際インフレ率(図表2の紫色点線)が高止まりしているので、あと数回は米国で利上げが行われる可能性があります。この場合、米国株は金利上昇による下押し圧力が意識されることも考えられます。
なお、FRBの今回の利上げでは、米ドル/円レートへの影響は考慮されないと思われます。金利差以外の要因にも左右されますが、日米金利差の拡大は円安要因の一つとなり得ます。このため、日銀がFRBと同等以上の幅で政策金利を引き上げるかどうかを市場参加者が意識する展開となる可能性があります。
■米株安、円高反転、内需減速の影響と投資アイデア
このところの日経平均株価の上昇は半導体関連株の上昇にけん引されています。このため、米国で利上げが続いて米国株市場が軟調となると、そのことが海外投資家の行動を通じて日経平均株価の下落圧力となります。同時に、米国での利上げで日米金利差が拡大すると円安が進んでしまう可能性があります。これを防ぐために日銀が早いペースで利上げを行い、なんとか円高に反転した場合、これも海外売上の割合が高い企業が多く含まれる日経平均株価の下押し要因となります。さらに、金利のある世界に戻った日本での利上げは、経済活動の抑制、つまりは企業業績の悪化を通じて株価が下落する可能性があります。つまり、米国の利上げが、3つの経路を通じて日経平均株価の下押し要因となる可能性があるといえます。
日米の中央銀行が同時に利上げを行う状況では「中央銀行に逆らうな」という投資格言を念頭に置く必要が出てきます。あくまで一つのシナリオとはいえますが、この場合、ポートフォリオのレバレッジを引き下げ、現金比率を高めることに加え、株価指数に連動する投資信託やETFに投資するなら、輸出関連株の比率が高い日経平均株価よりは内需関連株の影響が大きいと考えられるTOPIXや読売株価指数(読売333)を選好する、という選択肢も考えられます。
あわせて、日経平均VIの水準が過去のレンジと比べて低位で推移しているうちに、ポートフォリオの保険として日経225オプションや日経225ミニオプションのプット購入も一案と考えられます。プレミアムが比較的割安なうちにヘッジポジションを構築できる点は、オプション取引ならではの利点といえ、直近限月のFOTM※をロールするといった、コストを抑える工夫もできそうです。
※FOTM(Far Out of The Money)のオプションとは、本源的価値がゼロで、現在の原資産価格から大きく離れた権利行使価格(ストライク)を持つオプションのことをいいます。
まとめ
米国の利上げと日銀の利上げは日米同時株安を招く可能性があり、その場合、3つの経路を通じて日経平均株価への影響が大きくなりそうです。あくまで一つのシナリオではありますが、このシナリオに備えるのであれば、ポートフォリオのレバレッジを引き下げ、現金比率を高め、外需株の比率を下げるといった対応が考えられます。また、日経平均VIが低位にある局面でのプットオプション購入は、こうしたテールリスクに備える選択肢の一つといえそうです。
図表2 過去30年のFFレート、Core PCE Price Index、S&P 500とNasdaq100の推移
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