化学業界は、2021年前半の製品市況上昇から一転、2022年前半は市況下落と原料高で2022年度上期の収益が総合化学メーカーを中心に悪化し、上期決算時での通期計画の下方修正が相次ぎました。半導体も、スマホ・パソコン関連の需要減などにより年央から生産が前年を下回るなか、半導体材料メーカーも在庫調整の影響を受け22年度下期の業績予想を引き下げました。業界の動きとしては、各社の「カーボンニュートラル宣言」に基づき、2022年からはGHG排出量削減に向けた取り組みが始まりました。コロナ関連では、コロナウイルス迅速診断キットやPCR検査試薬などの出荷が継続しましたが、不織布マスクや医療用ガウン、人工呼吸器などの需要は一巡し、総じてコロナ関連の売上高は2021年に比べ減少に転じました。
化学・合繊注目テーマは、「IRA」・「サステナビリティ」・「半導体後工程」
2022年の化学・合繊業界を振り返る
2023年の化学・合繊業界の展望
2023年の化学・合繊業界ですが、総合化学においては、中期的な需要減速や競争激化およびGHG排出量削減の環境下、汎用石油化学事業での業界再編の動きが活発化するとみています。電子材料は、半導体市場が2023年後半まで需要減速見通しのなか、半導体材料の出荷も2023年度上期は低調な推移を予想しています。一方、EV(電気自動車)の需要拡大は続く見通しで、リチウムイオン電池材料や車輌資材などを手がける企業の収益拡大が見込まれます。ライフサイエンスでは、CDMO(バイオ医薬品開発・製造受託)、CRO(医薬品開発受託)事業における化学メーカーの存在感がさらに高まる年になると考えます。ニッチ市場でグローバルトップシェア製品を多く持つ中堅化学メーカーの収益環境は、相対的に堅調見通しです。
2023年の注目テーマは、「IRA」・「サステナビリティ」・「半導体後工程」
米国で成立した「インフレ抑制法(IRA)」は、米国で製造されたEVに対する補助金を申請する条件の1つとして、バッテリー部品の50%が北米で製造されていることとしています。このIRAにより、中国以外のエリアでのバッテリー材料サプライチェーン設置加速が予想されます。特に韓国のバッテリーメーカーは米国で生産を拡大しているため、ここに電池材料を供給している日本メーカーは需要拡大の恩恵を受けるとみています。「サステナビリティ」では脱炭素技術に加え、リサイクル技術革新も将来のビジネスチャンス拡大につながると想定されます。半導体では、前工程における回路の微細化が物理的限界を迎えつつあり、さらなる高機能化は「半導体後工程」での実装技術の進歩がカギを握っています。
澤砥 正美
SBI証券 企業調査部(化学・合繊業界担当 シニアアナリスト)
1984年にサンダーバード国際経営大学院卒業後、米国化学大手の日本法人であるデュポン・ジャパンにて、日本の化学大手との合弁事業の設立・運営などに従事。1990年からは化学業界のアナリストに転じ、クレディ・スイスなどの外資系投資銀行にて活躍。30年間にわたり化学・合繊業界調査および企業分析に携わる。日経アナリストランキングやInstitutional Investorsランキングでは、常に上位の評価を得る(2007年日経アナリストランキング化学部門4位、Institutional Investorsランキング化学部門3位)。2017年6月より現職。アナリストカバレッジの少ない中小型銘柄の調査も担当。リチウムイオン電池材料、自動車軽量化素材、ライフサイエンス分野のリサーチにも注力している。
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