経済分析先進国は2024年後半に循環的な景気回復へ

1) 金融引締めの景気抑制効果が少なくとも2024年前半は残る、2) 実体経済に6–12ヵ月先行するサーベイ指数は2022年10月から停滞が続き、回復の兆候が見えない、3) 実体経済に15–18ヵ月先行するM1/(M3–M1)比率前年比がようやく2023年8月に谷をつけた可能性がある、などを考えると、先進国経済は2024年後半に循環的な回復局面に向かうと見込む。ただし、各種景気先行指標は米国では改善がみられるが、日本やユーロ圏では停滞が続いている。後者では景気の谷が後ずれする可能性がある。

インフレ率は一連の負のグローバル供給ショック(エネルギー価格、供給網撹乱)の影響が解消し、パンデミック前の定常状態に収斂する過程が2024年も続くと見込む。主要先進国のコアCPIインフレ率は2%台前半あたりにまで低下しよう。現状の景気がピーク近傍にあることを考えれば、景気循環を均したインフレ率のより長期的な定常状態は2%前後に収束しても不思議ではない。

米国経済は、労働市場の需給緩和、住宅需要の低下などを反映して、2024年前半まで停滞感が残るが景気後退には至らず、緩慢な回復局面に移行すると見込む。2024年半ばには、名目雇用者報酬の伸びは年率4%程度に減速し、コアCPIインフレ率は年率2%台前半に低下すると見込む。パンデミックによる各種の撹乱要因が解消し、総じて、パンデミック前の定常状態に収束する過程が2024年も続くと考える。米国FF金利は現在の5.25%–5.50%がピークとなり、景気減速とインフレ率鎮静化の中で、2024年6月から25bpsずつの利下げが始まると見込む。着地点は3.00%–3.25%あたりと見込む。

日本経済は、労働市場や各種投資(設備投資、住宅投資、建設投資、公共投資)の先行指標の悪化が続いており、民間内需の低迷が続きそうだ。周回遅れの経済再開や交易条件の改善(原油価格低下)という追い風は一過性で、すでに剥落した。家計の実質購買力の改善が実現せず、民間消費の停滞に寄与している。労働市場の好循環実現のハードルは高い。1) 人口減少で雇用者数は頭打ち、2) 働き方改革による労働供給への負の誘因(正社員は長時間労働への忌避、パートタイム労働者は年収の壁と最低賃金引上げの組み合わせ)、3) 雇用単価は、すでに労働生産性の伸びを上回って上昇、4) 日本の二重労働市場(賃金変動で労働市場の需給を均衡できない)、5) 労働市場のマッチング機能の低下、などで労働需給のひっ迫が賃金上昇と労働供給の増加につながりにくいため。日本の物価上昇の大部分は負の供給ショックに由来し、景気拡大(需要側要因)の物価上昇への寄与は低下している。CPIインフレ率は2023年半ばにピークをつけ、2024年に入ると2%を下回ると見込む。この情勢の中で金融政策の正常化を前倒しで実施すると、実体経済にはブレーキがかかり、その後の利上げは先送りせざるを得なくなろう。

名目GDP成長率>10年債利回りというレジームが逆転すると、資産価格(株価、不動産価格)には逆風となる。すでにいくつかの欧州小国ではこの逆転が実現している。金融引締め長期化は、このレジームの逆転に寄与する。

長期的なインフレ率の決定要因は、潜在成長率(需要の持続的な伸び)と信用創造である。潜在成長率は低下傾向にあり、金融規制強化の下で信用創造は制約される。インフレ率が長期間高止まりするとは考えない。

グローバリゼーションの逆転でインフレ率が上昇するという議論は一面的。貿易依存度は2008年をピークに低下したが、2010年代は低インフレが続いた。グローバリゼーションの逆転は、非効率性の増大と実質購買力の低下を通じて、潜在成長率を低下させ、ディスインフレ的である。相対価格の変化と一般価格の変化を分けて考える必要がある。

米国大統領選挙は、民主主義の分水嶺となりそう。上下両院と大統領がすべて共和党で占められると、米国第一主義の下で西側先進国の結束に大きな撹乱要因となる(気候変動への対応、NATO離脱、関税導入など)。

松岡 幹裕

松岡 幹裕
SBI証券 金融調査部(チーフエコノミスト)

(株)三菱総合研究所、(株)大和総研でのエコノミストを経て、1997年から機関投資家向けサービスに従事。1999年からジャーディンフレミング証券(現JPモルガン証券)、2001年からドイツ証券を経て、2018年11月にSBI証券に入社。Institutional Investor All Japan Research Teamでは、2003-2006年2位、2007-2012年3位、2007-2012年4位、2017年5位にランクイン。米国ブラウン大学大学院経済学部修士取得。

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