情報通信サービスARPU底打ちで新サービス拡充の動きが一段と加速

2023年の情報通信サービスセクターを振り返る

2023年の通信業界は緩やかな成長を遂げる結果となった。通信料金値下げの影響で長らく低下傾向にあった携帯電話のARPU(1契約当たりの売上高)も年央より反転しつつあり、一部では実質料金値上げの動きも出始めている。一方、規制面では秋以降にNTT法の見直し議論が活発化している。NTT法とは、1985年のNTT民営化に際し、「公正競争の確保」と「利用者権利の保護」を目的に設立された法律。国際競争力向上を目的に完全廃止を狙うNTTと、NTT法廃止による競争環境の後退や、ユニバーサルサービスの維持を危惧する他の通信会社の意見が対立している。12月初頭に自民党のプロジェクトチームが、2025年を目途としたNTT法廃止の提言案が発表したが、政局が不安定化していることもあり、最終決着が見通せない状況にある。

2024年の情報通信サービスセクターの展望

値下げ影響の沈静化と、非通信分野の寄与拡大で、2024年の大手通信各社の業績は安定的な成長が期待される。通信各社は、EC、フィンテック、法人分野などに注力しているが、2024年の各社の業績は、この成長分野の成否がより強く反映されることになるであろう。一方、モバイル事業の赤字が徐々に縮小しつつある楽天は、これまでの設備投資拡充やKDDIとの連携強化が奏功し、2023年後半より加入者の純増のペースが加速。2023年秋につながり易い周波数帯域であるプラチナバンドの免許獲得にも成功した。これを受け、会社側は、2024年末に向けて、モバイル事業のEBITDA利益黒字化を目指すとしており、今後の動向が注目される。なお、業界にとっては、規制環境の変化に注視が必要。とりわけ、議論が進められているNTT法の見直しがどのような形で決着するかにより、将来の競争環境が大きく変わる可能性がある。

2024年の注目テーマは生成AI

2022年11月に登場したChatGPTを契機に、2023年は生成AIの開発が世界的に注目を集める年になった。生成AIはまだ黎明期にあるため、この動きは2024年も継続すると見られる。生成AIとは、AI(人工知能)が、データ解析と学習により新たなコンテンツを創造するもの。さまざまな分野への応用が可能であり、革新的なサービスやコンテンツの創出が期待されている。この生成AIの開発では、大量のデータを解析する必要があり、膨大な計算能力の確保が不可欠である。この面で先行しているのは、米国や中国である。日本でも、2023年後半より、官民挙げて、国産の生成AI開発やデータセンター建設の動きが活発化し始めており、今後の動きが注目されよう。

森行 眞司

森行 眞司
SBI証券 企業調査部(情報通信サービス・インターネット業界担当 シニアアナリスト)

大和証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券、SMBC日興証券、シェアードリサーチ等で、30年以上に渡りアナリストを経験。過去の主な担当業界は、機械、自動車・部品、情報通信サービス等。また、6年半に渡り欧州に駐在し、欧州の情報通信、運輸、素材業界なども担当した。1992年以降は情報通信サービスを中心に担当。IT・情報通信・メディアセクターのチームヘッドも歴任する。 日経ヴェリタス、Institutional Investorのアナリストランキングでは常に上位にランクイン。トムソンロイターのスターマイン・アナリストアワードでは、通信部門で計4回の首位を獲得。2017年6月より現職。幅広いセクター経験を活かし、情報通信サービスの主力銘柄とともに、周辺銘柄の発掘にも注力する。

ゼロ革命 新NISAやるならSBI証券

ご注意事項

  • ・SBI証券の取扱商品は、各商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります(信用取引、先物・オプション取引、商品先物取引、外国為替保証金取引、取引所CFD(くりっく株365)では差し入れた保証金・証拠金(元本)を上回る損失が生じるおそれがあります)。
    各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等およびリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、SBI 証券WEB サイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示または契約締結前交付書面等をご確認ください。
    金融商品取引法等に係る表示
  • ・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。本資料は、信頼できると判断した情報源からの情報に基づいて作成したものですが、正確性、完全性を保証するものではありません。万一、本資料に基づいてお客様が損害を被ったとしても当社及び情報提供者は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
    重要な開示事項(利益相反関係等)について
  • ※掲載しているコンテンツ内でご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません